味覚障害は将来地獄を見る――。
少々大げさなように思えるかもしれませんが、味覚障害を放置していると、脳出血や心筋梗塞のリスクが急激に高まってしまいます。味蕾(みらい)は年齢とともに衰えていきますが、若年層でも《味の濃い食べ物》ばかり食べていると、何歳であろうと関係なく衰えます。
とくに今は、ジャンクフードやコンビニ弁当などを食べることが多いことから、たとえば、白身魚の味が分からないような子供も急増しているようです。
個人差はありますが、高齢になると味覚というのは全体的に衰えてしまいます。しかし、若い頃の不摂生が積もることで味蕾の衰えは加速し、塩分や糖分を摂りすぎてしまうことになります。
これは非常に危険なことで、30歳代、人によっては20歳代という若さで生活習慣病を患ってしまうリスクを抱えてしまいます。生まれつきの体質で、病気を患いやすい子供もいますが、食生活の乱れによる後天的な要因で生活習慣病を患うこととは、まるで意味が違ってきます。
そこでこの記事では、年齢とともに衰えてくる《味蕾の鍛え方》や《味覚障害を予防するための方法》などについて話していこうと思います。
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味覚障害は『塩味』を感知する能力が突出して衰える
年齢を重ねるにつれて、味覚の能力は衰えてくるんですが、最も顕著に現れるのが塩味に対しての感知能力です。
高齢者が塩味を感知する能力は、健康な若い人に比べると約12分の1にも減ってしまいます。これを逆に言うと『約12倍の塩を使わないと、健康な味覚と同じ塩味を感じられない』ということになります。
その他の味覚に関しては、以下のようになっています。
味覚の衰えによる必要な刺激量 | |
苦味 | 健康な若い人と比べて7倍必要 |
旨味 | 健康な若い人と較べて5倍必要 |
酸味 | 健康な若い人と比べて4.3倍必要 |
甘味 | 健康な若い人と比べて2.7倍必要 |
これを見ても分かるように、味覚の衰えというのは塩味が突出して大きくなっています。
つまり、味覚が衰えてしまうと、塩分の摂り過ぎを誘発してしまうことになるので、普段からジャンクフードなど味の濃い食事を多く摂っていると、自分自身で生活習慣病を誘発している結果になってしまうんです。
高齢者に味覚障害が多い理由とは?
『甘い』『辛い』『苦い』などといった味というものは、食べ物と直接接触する舌が受ける刺激が、脳へ信号として伝達されて感じるものです。
この《信号伝達》に何らかの乱れが生じてしまうと、味の感じ方がおかしくなります。
こういった乱れは、ストレスや体調不良などから起きます。さらに、降圧剤や糖尿病治療薬の副作用として引き起こされることもあります。こういった薬を服用しているのは、総体的に高齢者が多いこともあり、結果として高齢になるほど味覚障害が多くなるということなんです。
ただ、潜在的な味覚障害となると高齢者に限ったことではなく、20代や30代でも患っている人は少なくないようです。
味覚障害患者数は推計24万5000人にのぼる!?
味覚障害を患っている患者数は、潜在的な患者を含めない数でも、2003年の段階で24万5000人にのぼっています。
『日本口腔・咽頭科学会』の調査による味覚障害患者数の変化
上記の図を見ても分かるように、日本口腔・咽頭科学会の調査によって、1990年から2003年の13年間で約2倍も増加しているという結果が出ています。しかし、潜在的な患者数を含めると約3倍以上の数になると言われています。
ですが、ここでもっと問題となっているのは、味覚障害を患っている人に自覚症状が乏しいこともあり、正確な統計を取ることが非常に難しいことにあります。
味覚障害は視覚や聴覚の症状に比べて把握しにくい
味覚障害を患っている人の多くは、食べているものにソースや醤油をドバドバかける傾向にあります。
視覚や聴覚に異常が出た場合、見え方や聞こえ方が正常時とは明らかに違っているという自覚症状があります。
しかし、味覚障害の場合は「ちょっと醤油をかけすぎたかな?」と感じても、味覚の順応という作用によって、濃いと感じた味が徐々に慣れてしまい「これが普通の味なんだ」と思い込んでしまいます。正常な味覚を持っている人にすると、あまりに濃くて食べられない味であっても普通の味と感じるようになるんです。
こうなってしまうと、ますます通常の味付けでは薄く感じてしまい、塩分過多や糖分過多という状態に陥ってしまいます。
高血圧や動脈硬化を患うリスクが高まる
「味覚なんて個人差だし気にする必要ないよ」と侮ってしまいがちですが、これが非常に恐ろしいことなんです。
昨今、減塩や糖質の制限がブームとなっていますが、これは逆に健康を害する恐れがあります。人間というのは、あまりに塩分や糖分を制限してしまうと、生命維持に必要なエネルギーが足りなくなってしまうので、ブームに乗っかった減塩や糖質制限はするべきではありません。
しかし、味覚障害による塩分の過剰摂取は全く話が違ってきます。
濃い味付けの食事ばかり摂っていると、高血圧や動脈硬化へのリスクが急上昇してしまいます。これだけで済めばさほど大げさに考える必要もないのですが、高血圧や動脈硬化というのは、味覚障害の弊害としては入り口にすぎません。
この先に待ち受けているのは、脳出血や心筋梗塞といった命に関わってしまう疾病のリスクとなります。
症状が進むと別のリスクも生まれる
比較的、高齢者に多い味覚障害も、後期高齢者(75歳以上)になると、さらに症状が進んでしまうことになります。
味覚障害の症状が進んでしまうと『食べ物の味が薄すぎて食事がつまらない』という感覚になってしまい、食事自体を摂らなくなってしまう人が多くなります。食事を摂らなければ、当然のことながら栄養失調の状態になってしまい、体重や免疫の低下を招き、重篤な病気へとつながってしまいます。
若い方の場合、家で食べる食事の味が薄く感じてしまい、ファストフードやコンビニ弁当などといった《濃い味付け》を求めてしまうので、味覚障害はどんどん進行することになります。
結果的に塩分を過剰摂取することになり、若くして脳出血や心筋梗塞を発症してしまうリスクが高くなるんです。
気温が下がってくるこれからの季節が危ない
寒くなる季節というのは、味覚障害の症状が進行しやすいので、気を付ける必要があります。
味というのは、食べ物の成分が唾液を伝って舌の味を感知する味蕾(みらい)に広がり、そして脳に信号として伝わります。上のイラストのように、舌のポイントによって感知する味は違っているのですが、濃い味付けの食べ物ばかりを食べていると、味蕾が麻痺してしまい、味覚障害を引き起こしてしまうんです。
気温が下がり寒くなってくると、空気も乾燥してしまい、口の中も乾いてしまうので唾液が減ってしまいます。
味を脳へ伝える唾液が減ってしまうと、ますます味覚障害が進行しやすくなるので、冬季の料理の味付けは他の季節よりも注意を払う必要があります。
味蕾を再生させる食材と唾液分泌マッサージ
ここからは、どうすれば味覚障害を予防できるのかについて話していこうと思います。
味覚障害の予防に必要なのは、まず《亜鉛摂取》が挙げられます。
亜鉛というのは、味蕾を再生させるために必要不可欠な栄養素なので、日々の食事でしっかりと摂取するように心がけることが大切です。亜鉛は《牡蠣(かき)》《牛肉・レバー》《卵黄》などに多く含まれている栄養素です。
とくに牡蠣などを含む魚介類というのは、人体に必要な栄養素がふんだんに含まれているので、積極的に摂取するようにしましょう。
昆布茶でドライマウスを予防すると効果的
昆布に含まれている《うまみ成分(グルタミン酸)》が味蕾に検知されることで、唾液反射が起きます。
唾液反射が起きることで、唾液の量は急増して口腔内が乾くことを防いでくれるんです。ただし、塩分を摂りすぎないように、所定の分量の3倍程度に薄めるようにして下さい。そして、30秒ほど口に含んでから飲むと効果的です。
これ以外にも、硬い食感と柔らかい食感の食べ物を一緒に食べることもお勧めです。
食感の違いによって咀嚼回数が増えるので、咀嚼刺激によって唾液の分泌量が非常に多くなり、ドライマウスや歯周病予防の効果も上がります。
唾液腺マッサージで唾液の分泌を活性させる
味覚障害の予防法として、日頃から唾液がよく分泌されるよう心がけることも大切です。
唾液をしっかりと分泌させるには様々な方法があるのですが、最も手軽で誰でも行える『唾液腺マッサージ』が効果的だと言えるでしょう。
◆ 唾液を分泌させるマッサージ箇所とやり方
- 耳下腺(両ほほの上の奥歯あたり)
- 顎下腺(アゴの骨の内側の柔らかい部分)
- 舌下腺(下顎の部分)
この3つのポイントを、5回~10回ほど指で優しくマッサージすることで、唾液腺が刺激されて唾液の分泌を促すことができます。誰でも簡単にできるマッサージです。日頃の習慣にすると味覚障害の予防に繋がるので、ぜひ試して頂きたいと思います。
まとめ(味覚障害の予防法と味蕾の鍛え方)
味覚障害は、自分自身の将来を地獄へと変えてしまう恐ろしい病気です。
これを予防するためには、食事やマッサージなどの他に『会話をする』ことも非常に効果的な予防法となるんです。人と会話をすることで口周りの動きが多くなり、唾液の分泌を促す効果があります。
結果的に、味蕾を鍛えることになり味覚障害の予防へと繋がるので、極力、普段から人と話すように心がけることが大切だと言えます。
『味が薄いから醤油やソースをかける』『味の濃い食べ物を求める』といった食生活ではなく、味覚の変化と向き合って、通常の味付けで美味しいと思える《正常な味覚》を取り戻すことが、最も重要なことなんです。
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