健康で優雅な人生を送るための最低条件として、骨を丈夫に保つことが挙げられます。老化やカルシウム不足が原因で、骨が脆くなってしまうと、スポーツなどは当然のこと、立ったり座ったりといった日常生活にも支障をきたす事態になります。
しかし《骨の丈夫さ》というのは、ただ単純に《骨の強靭さ(骨密度)》とイコールになるわけではないんです。
近年、医学の世界で注目を集めているのは、骨が体内にある様々な臓器に対して司令を出すという《骨ホルモン》の活動なんです。
『骨が命令を出す』という、いまいち意味が分からない現象ですが、最新の研究結果によって、骨が持っている脅威のパワーが明らかになりつつあります。
そこでこの記事では、若返り物質とも言われている『骨ホルモン』や、骨ホルモンを分泌する『骨芽細胞』など、秘めた力を持っている《骨》の最新情報について、詳細に話していこうと思います。
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人体は全てが複雑に絡み合うネットワーク
これまでの常識としては『脳が司令塔となって、体のあらゆる部位に対して、生命維持に必要な司令を出してコントロールしている』ということが、当たり前のように考えられてきました。
ところが、この常識を大きく覆す、最新の学説が注目を集めています。
その最新の学説とは『各臓器や体組織も、脳と同じく独自にメッセージ物質を分泌して、他の臓器や体組織と相互にやり取りをしている』というものです。
骨が出すメッセージ物質とは
骨が分泌しているメッセージ物質(ホルモン)の一つとしてオステオカルシンというものがあります。
40年以上にわたって骨の研究をしてきた、コロンビア大学遺伝発達学のジェラルド・カーセンティ教授が、2007年に『オステオカルシンというホルモンには、糖尿病を改善する働きがある』という発表をしたことによって、大きな注目を浴びることとなりました。
それまでの『骨は動かずに体を支える無機質な硬い物質』という、誰も疑う余地すらなかった定説を一変させる画期的な発表です。
この研究結果の発表後、10年にわたった研究によって様々な知見が重なり、現在では、オステオカルシンは世界中の医学界から注目されるホルモンとなっています。
オステオカルシンの働きは糖尿病改善だけではない
オステオカルシンというホルモンは、骨全体の質量に対して約0.4%しか存在しない希少なものです。
その0.4%のうち、血中に入って様々な臓器に運ばれる量というのは、さらにわずかな量となってしまいます。このような微量のホルモンなのですが、オステオカルシンというのは、そのわずかな量にも関わらず、糖尿病を予防したり改善したりする力を持っています。
そこでここからは、オステオカルシンが糖尿病の予防改善をはじめとして、複数の病気に対する働き、さらには筋肉への働きもあるので、その辺りを詳しく話していきたいと思います。
オステオカルシンの働き①:糖尿病の予防改善
オステオカルシンというホルモンは、膵臓と小腸に対して直接働きかける機能を持っています。
九州大学『オステオカルシンによるインスリン分泌の新しい経路を発見』より画像を引用
膵臓への働きかけでは、ランゲルハンス島β細胞を増殖させることによって、血糖値を下げる働きのあるインスリンの分泌量を増やしてくれます。
小腸への働きかけでは、同じくインスリンの分泌を促すインクレチンというホルモンの分泌量を増やしてくれます。
オステオカルシンの濃度が低い人というのは、糖尿病検診で指標として用いられている《ヘモグロビンA1c》の数値が、全体的に高くなっているケースが多く見受けられます。
脂肪細胞へも働きかける
オステオカルシンには、脂肪細胞が出すアディポネクチンというホルモンの分泌を促す働きもあるんです。
アディポネクチンは、インスリン感受性を高めるために、血糖値の改善を促してくれる機能があると考えられています。アディポネクチンが多すぎると、筋力が弱ってしまうといった警告があるのですが、その一方で、動脈硬化や脂質異常症を抑制するという働きがあるので、長寿ホルモンとも呼ばれています。
オステオカルシンの働き②:動脈硬化を防ぐ
前項で少し触れた『オステオカルシンには動脈硬化を防ぐ働きがある』というのは、血管内の一酸化窒素の産生を促進してくれる機能があることに繋がります。
血管内の一酸化窒素の量が増加すると、血管平滑筋(けっかんへいかつきん)という血管の内側にある筋肉が弛緩します。血管平滑筋が弛緩することで、血流がスムーズになると考えられているので、結果として動脈硬化を防ぐ効果が期待できるんです。
動脈硬化を予防することによって、その先にある心筋梗塞や脳梗塞などの、命を落とす危険性の高い病気に対しての予防にも繋がるというわけです。
オステオカルシンの働き③:認知症の予防効果
現時点では、まだマウスでの研究段階なのですが、オステオカルシンは認知症を予防する効果にも期待が持てるホルモンなんです。
前述しているカーセンティ教授の実験によると、オステオカルシンを分泌しないように遺伝子操作したマウスを観察した結果、脳の神経細胞の働きの低下が認められました。そのマウスにオステオカルシンを注射すると、記憶力や認知機能が回復したという結果が出ています。
詳しいメカニズムに関しては、まだ解明されていないのですが、カーセンティ教授によると『オステオカルシンは、に脳の神経細胞が死滅することを抑制する何らかの効果があるのではないか』と分析しています。
オステオカルシンの働き④:筋肉への作用
オステオカルシンには、筋繊維を増加させるタンパク質の合成能力を向上させる効果もあると考えられています。
前述のカーセンティ教授の実験で、老化マウスにオステオカルシンを注射して観察したところ、老化マウスの骨格筋の量が増加し、運動能力が回復したという結果が出ています。
さらに研究が進めば、近い将来には、老化による筋力の低下や、アスリートのトレーニングへの応用などにも期待が持てるでしょう。
オステオカルシンの働き⑤:男性の生殖機能への作用
オステオカルシンには、男性ホルモンであるテストステロンを増加させる機能があります。
これに関しては、カーセンティ教授だけではなく、その他多くの研究者が「オステオカルシンには、男性の生殖機能を回復させる可能性が非常に高い」という発表をしています。
まだまだ研究段階ではありますが、そう遠くない未来では《男性の生殖機能は衰えないことが当たり前》という時代が来るのかもしれません。
骨ホルモンを分泌する骨芽細胞
ここまで述べてきたように、骨ホルモン(オステオカルシンなど)というのは、様々な可能性を持っています。
しかし、年令を重ねていくにつれて、骨の強度というのは低下していくのですが、それと同様に、加齢によって骨ホルモンも減少することになります。
骨ホルモンは、骨を形成する働きを持っている細胞、いわゆる《骨芽細胞》によって分泌されているのですが、年齢を重ねることによって、この細胞自体が減少してしまい、骨ホルモンの減少へと繋がるのです。
加齢により骨の新陳代謝が崩れる
骨の主成分であるアパタイトを溶かしてしまう《破骨細胞(はこつさいぼう)》と、新しい骨をつくってくれる骨芽細胞が、互いに新陳代謝を繰り返すことで、骨は強く頑丈な状態を保てることになります。
しかし、この新陳代謝のバランスが崩れて、骨芽細胞よりも破骨細胞の働きが強くなってしまうと、当然のように、骨を作るスピードがアパタイトを溶かすスピードに追いつかないので、骨が脆くなってしまいます。
そうなると、オステオカルシンの分泌量が減ってしまうので、結果的に、糖尿病や動脈硬化といった様々な病気を患うリスクが増すことになるんです。
骨が脆くなると骨粗鬆症になり、骨折しやすくなるので、少し転んだだけで寝たきりになってしまうリスクが高くなります。
ですが、それだけではなく、骨ホルモンが減少することによって、生活習慣病や認知症を発症するリスクも増加してしまうことになるんです。
骨芽細胞を刺激するための運動とは
健康寿命に大きな影響をもたらす骨ホルモンの減少を食い止めるためには、新しい骨を形成して骨ホルモンを分泌してくれる骨芽細胞を刺激することが必要です。
骨というのは、負荷がかかることで、その力に耐えられるように骨芽細胞が活発化します。そして、骨質の改善と骨量を増加させるために働き始めるんです。骨芽細胞の働きを活発化させることで、オステオカルシンの分泌量も当然のように増加します。
そこで、骨芽細胞に刺激を与えるための運動として《かかと落とし(カーフ・レイズ)》と《ミニジャンプ》を行うことをお勧めします。
骨芽細胞を刺激する運動①:かかと落とし(カーフ・レイズ)
かかと落とし(カーフ・レイズ)は、直立した姿勢でつま先立ちになって、両脚のかかとを上げ下げする運動です。
かかと落とし(カーフ・レイズ)のやり方
『花王ヘルスケアナビ』より画像を引用
- 手順①:背筋を伸ばして直立する
- 手順②:両脚のかかとを上げてつま先立ちになる
- 手順③:かかとをストンと落として体の重みを伝える
画像では、机に手をついていますが、支えなしで出来る方は手をつかずに直立して行いましょう。ただし、バランスを崩して倒れないよう注意して下さい。
この運動を1日30回、出来る限り毎日行うように心がけることで、骨芽細胞にしっかりと刺激を与えることができます。
骨芽細胞を刺激する運動②:ミニジャンプ
ミニジャンプのやり方
- 手順①:高さ10cmほどの台に立つ
- 手順②:背筋をしっかり伸ばしてお腹を引っ込める
- 手順③:目の前にストンと落ちるように飛んで、かかとを地面につける
- 手順④:着地の際には膝を曲げて必要以上の衝撃をやわらげる
適当な台が無い場合は、階段などを利用して行って下さい。ただし、屋外でする場合は、周囲の状況などに注意して行いましょう。
この運動を1日50回、出来る限り毎日行うように心がけることで、骨芽細胞にしっかりと刺激を与えることができます。
小規模の実験ながら効果に期待できる
上記の《かかと落とし(カーフ・レイズ)》と《ミニジャンプ》は、至ってシンプルな運動ながら、効果には期待が持てます。
両方の運動とも、少人数の実験ではあるのですが、1日30回のカーフ・レイズと、1日50回の実にジャンプを2週間継続して行うことで、オステオカルシンの量が増加する傾向が見られているようです。
多少の個人差はあるようですが、継続して行うことで、オステオカルシン量の現状維持、あるいは増加に期待が持てます。
骨ホルモンの増加にはビタミンKが重要
骨を京香するための栄養素として、カルシウムやタンパク質が必要とされていることは、誰もがご存知かと思います。
しかし、骨ホルモンを増加させるための栄養素には、ビタミンKが最も重要になるんです。オステオカルシンを増やすためには、骨にカルシウムを沈着させる働きがあるビタミンKが不可欠なんです。
ビタミンKが多く含まれている食品は『ブロッコリー・ほうれん草・おかひじき・納豆』などが挙げられます。
日頃から、こういった食品を食べるよう心がけると同時に、前述の《骨芽細胞を刺激する運動》を行うことで、加齢による骨ホルモンの減少を抑えることが可能となります。
骨ホルモンのサプリメントを開発中の企業も
現在では、骨ホルモンを経口投与するための研究も進んでいます。
マウスの実験では、経口投与したオステオカルシンの一部が、活性を保ったままの状態で24時間以上、消化器官内にとどまって、血中に存在し続けているようです。
さらに、オステオカルシンをサプリメントとして開発中の企業もあり、すでに臨床試験を行っている段階なのかもしれません。サプリメントの開発に成功すれば、骨が脆くなって骨折や寝たきりになる人の減少に期待することが出来ます。
まとめ(究極の若返り物質オステオカルシン)
骨ホルモンの減少は、イコール老化に繋がります。
逆に言えば、骨ホルモンを現状維持、あるいは増加することが出来れば、人間は老いという宿命から、一歩抜け出すことが可能となるんです。
《骨が丈夫になる》→《体を動かすことができる》→《筋肉が鍛えられる》→《骨がさらに頑丈になる》
このプラスのスパイラルによって、糖尿病などの生活習慣病、さらには認知症などといった病気を予防することにも繋がるので、骨ホルモンの維持増加が健康寿命を伸ばすカギなのかもしれません。
今後さらに、骨ホルモンの研究が進めば、これまで当たり前と思ってきた『人間の老化の常識・老後のライフスタイル』が、大きく変わることになるはずです。
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