日々の食事で糖質制限を心がける――。
この12年間における健康意識の高まりによって、日本人の平均糖質摂取量が1日15グラムも減っています。にも関わらず、糖尿病患者の数は約100万人も増えているという、ちょっと首を傾げてしまうような数字が出ています。
糖質摂取量と糖尿病患者数の不思議な関係――。
2002年には、1日平均で271.2グラムだった炭水化物(糖質+食物繊維)の摂取量が、2014年には255.8グラムにまで減少しています。しかし一方の糖尿病患者の数は、2014年に228万人だったのが、2014年には317万人にも増加しました。
◆ 日本人の糖質摂取量と糖尿病患者数の推移
*厚生労働省『国民の健康・栄養調査』『患者調査』の数値より作成
上記のグラフのように、2011年を境にして、糖質摂取量(青線)と糖尿病患者数(赤線)の差は逆転の形で広がり続けています。このように負の相関が際立ってしまう矛盾を《糖尿病パラドックス》と呼んでいます。
糖尿病を予防するために糖質制限しているはずなのに、蓋を開けてみると、糖尿病患者は増える一方の現状は、今の医学界では大きな問題となっています。
そこでこの記事では、糖質制限をすると糖尿病患者が増える《糖尿病パラドックス》について、さらに『食品による糖質の違い』といった部分について、詳しく話していこうと思います。
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怖いのは糖尿病自体ではなく合併症
昨今、糖質制限がブームになっていますが、そもそも糖質というのは、生きていくうえで欠かせないエネルギー源です。
私たちが食事などから摂取した糖質は、血液中に溶け込んで《血糖》というものになります。この血糖が全身に運ばれることで、生命活動を維持していくエネルギー源となるんです。つまり、糖質が不足すると生命活動に支障をきたすことになります。
みなさんもご存知にように、この血糖の量を示す数値を《血糖値》と呼んでいます。
血糖値は、食事をすることで増加し、通常では食後1時間~2時間くらいがピークとなり、その後ゆっくりと減少していきます。糖尿病というのは、一定時間を超えても血糖値が下がらず、高いままの状態のことをいいます。
『すえはら内科クリニック』より画像を引用
糖尿病になってしまうと、血糖が血管を痛めていまい、脳梗塞や心筋梗塞などを引き起こします。あるいは、組織が壊死してしまい、失明や四肢の切断などにも繋がることもあります。
つまり、糖尿病を患ってしまうと、様々な合併症を招くことになるので、非常に恐ろしい病気だと言えるんです。
糖質制限をすると糖尿病を招いてしまう!?
前述しているように、糖尿病は非常に恐ろしい病気です。
その恐ろしい糖尿病を予防する方法として、最もポピュラーなのが『血糖値を低くコントロール』することが挙げられます。
つまり、糖質制限をすることによって、血糖値を上げる原因となっている糖質を減らす――これが近年、主流となている糖尿病対策であり、糖質を制限するためのメニュー本などが非常に売れている要因となっています。
ですが、冒頭で述べている『糖質摂取量と糖尿病患者数』を見ると、糖質制限は糖尿病対策になっていないことを示唆しています。
糖質制限は糖新生という反応を起こす
糖質を制限するということは、体外から入ってくるエネルギー源を制限するということになります。
つまり、生命活動を維持するためのエネルギーが不足するということです。ですが、糖質摂取を制限しても、体内から糖が無くなってしまうわけではないんです。不足すれば、それを補おうとするのが人間の体なんです。
たとえば、糖が不足してしまうと、脳が活動を維持できない状態になってしまうので、それを防ぐ機能が人間にはあります。それが糖新生という反応です。
糖新生というのは、糖が不足する事態になった場合、筋肉を分解して糖を生み出す反応のことを言います。
糖新生は人体にとってイレギュラーな事態
人体に備わっている機能は、すべて生命を維持することを最優先に発動します。
糖新生という反応もその一つです。
糖新生は、空腹とともにストレスを感じた際に、脳から分泌される《コルチゾール》というホルモンによって引き起こされる反応です。つまり、筋肉を溶かしてでも生命を維持しようとする、生命活動の最も基本的な防衛本能だと言えるでしょう。
しかし、体が低血糖状態になったとき、コルチゾールが起こす反応は糖新生だけではないんです。
コルチゾールはインスリンの効きを抑える
今や、糖尿病予防だけではなく、ダイエット目的で糖質を制限する人が少なくありません。
糖質を制限することによって低血糖状態になってしまうと、コルチゾールは生命を維持するために、糖新生を起こします。それと同時に、上げた血糖値を維持するためにインスリンの効きを抑制して、血糖値が下がることを防いでしまいます。
インスリンが効かない→血糖値が下がらなくなる→糖尿病を発症してしまう |
健康や美容のために糖質を制限したつもりが、逆に糖尿病のリスクを上げてしまうこともあることを覚えておくことが大切です。
筋肉の衰えを誘発してしまう糖新生
前述しているように、糖新生反応は筋肉を溶かすことで、不足した糖を補います。
筋肉が衰えすぎてしまうと、L-システインというアミノ酸の血中濃度が増してしまい、さらにインスリンの効きが悪くなります。つまり、血糖値を低くコントロールすることが出来なくなってしまうんです。
とくに高齢者になると、加齢にともなって筋肉繊維が細くなり筋力が衰えています。
この状態からさらに、糖質制限による糖新生が起きてしまうと、筋肉はより一層衰える結果になってしまいます。そうなると、インスリンが効きにくくなっている上に、足腰もどんどん衰えることになり、様々な病気を患ってしまう負のスパイラルに発展しかねない、ということです。
糖質制限はβ細胞の機能を減少させてしまう
昨今、糖質を制限することが健康法として注目されています。
しかしその反面、糖質制限をすると糖尿病になるという説も上がってきており、世界各国の研究機関が懸念するテーマとなっています。
前述している通り、糖質制限をするとインスリンの分泌量が減ってしまい、インスリン生成元である『β細胞』の活動が低下します。一旦、衰えてしまった活動量を元に戻すことは、はっきり言って容易ではありません。
筋肉を使わないと衰えてしまうように、糖質制限をある程度の期間に渡って継続すると、β細胞も機能が低下してしまいます。
β細胞の機能が低下すると、糖質を摂取した際に、インスリンが分泌できなくなります。こうなると、もうお分かりのように、糖尿病を発症するリスクが高まってしまうということです。
摂取するタンパク質と脂質にも大きな関係がある
糖尿病の原因を、糖質制限だけではなく、それに伴う食生活の変化も関係していると見る研究もあります。
糖質を制限するために、炭水化物の摂取量を減らすと、必ずタンパク質か脂質のどちらかの摂取量を増やす必要があります。これは、炭水化物の代わりになるエネルギー源を補わなければならないからです。
ですが、動物性と植物性のどちらを摂取するかによって、糖尿病発症リスクは大きく変わってくることが、ハーバード大学公衆衛生大学院の研究結果として出ているので、以下に分かりやすく表にまとめてみます。
◆ 『食生活』と『糖尿病発症リスク』の研究結果
糖質制限と併せた食生活 | 糖尿病発症リスク |
動物性タンパク質と動物性脂質 | 非常に高い |
動物性タンパク質と植物性脂質 | 比較的高め |
植物性タンパク質と動物性脂質 | 比較的高め |
植物性タンパク質と植物性脂質 | 非常に低い |
* 研究対象者は4万人以上の一般男性、研究期間は20年 |
もっと膨大な数値などが出ているのですが、ここでは結果のみを簡単に記しておきました。結果として、炭水化物の代わりに、肉などを多く摂取することによって、糖尿病の発症リスクを高めてしまうという研究結果になっています。
糖質制限をダイエットに応用するのは危険!?
『炭水化物を減らすことでダイエットに効果がある』というふれこみで、巷では糖質オフメニューが人気を集めています。
糖質制限というのは、一刻も早く血糖値を下げなければならない人、つまり《すでに糖尿病を患っている人》にとっては必要なことです。しかし、糖質制限というのは、あくまでも治療であり、決してダイエット法として利用するものではありません。
昨今のブームから、健康状態の人が糖質を制限する食事に偏ってしまうことは、自ら糖尿病を誘発していることにもなりかねません。
糖質制限は病気予防やダイエット法ではなく、糖尿病の治療法だと言うことを覚えておくことが大切なんです。
GI値で分かる血糖を上げない糖質
前述しているように、糖質というのは、生命活動を支えるエネルギー源です。
なので、糖質を制限することは好ましくないことですが、正しい糖質の摂り方というものがあります。それを判断するためにあるのが《GI値》という数値なんです。
GI値というのは、グリセミック・インデックスの略で、食品を摂取したあとの血糖値の上昇スピードを示す値です。
◆ GI値の高い食品と低い食品の一例
血糖値の上昇スピードが早い食品 | GI値 | 血糖値の上昇スピードが遅い食品 | GI値 | |
即席ラーメン | 73 | 枝豆 | 30 | |
精白米 | 84 | 納豆 | 33 | |
うどん(乾燥) | 85 | 全粉粒パン | 56 | |
食パン | 91 | 玄米 | 56 |
表の左側は、GI値が高い食品なので、摂取することで血糖値が急速に上昇します。反対に右側は、GI値が低いので、食べたあとは緩やかに血糖値が上昇する糖質となります。
糖質制限をするならGI値の高い食品を避ける
糖尿病予防やダイエット目的で糖質を制限するのは、糖尿病発症リスクが非常に高いのは確かです。
本来であれば、極端に炭水化物を制限するのではなく、食事のバランスをしっかりと取って、適度な運動を継続することが、糖尿病予防にもダイエットにも間違いなく効果的です。
しかし、どうしても糖質が気になってしまう方もいるでしょう。そういった人は、GI値の高い食品を避けることをお勧めします。
たとえばパンを食べるにしても、GI値が高い食パンは避けて、全粉粒パンを食べれば血糖の上昇を抑えることができます。また、昼食などで食べる人も多い即席ラーメン(カップ麺など)も、GI値が高いので、こういった食品を控えるようにすれば、最低限に必要な糖質を摂ることができます。
つまり、糖尿病予防やダイエットに必要なのは、糖の《量》ではなく《質》が重要だと言うことです。
まとめ(糖尿病パラドックスに陥らない方法)
GI値によって、血糖の上がり具合も変わってくるのですが、糖質を摂る順番も非常に大切です。
いくらGI値の低い食品でも、一気にまとめて摂取してしまうような食べ方をすると、血糖値の上がりかたも急激になります。つまり、血糖値の上昇を緩やかにするには《一点食い》せず、いろんな食材をバランス良く食べるように心がけることが重要です。
バランスの取れた食生活と毎日の適度な運動――。
これを心がけることで、危険な糖質制限をする必要がなくなり、効率の良い糖尿病予防やダイエットをすることができるんです。
間違っても、偏った糖質制限をすることのないよう、気をつけていただきたいと思います。
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