日本はアメリカなどとは違い、皆が等しく医療を受けることができる『国民皆保険制度』があります。これは、薬に関しても医師の処方箋があれば保険が適用され、安価(1割~3割)で購入することができる素晴らしい制度です。
この制度があるおかげで、私たちは安心して日々の生活を送ることができると言えます。
しかしその反面、病院で何種類もの薬を処方される人も少なくありません。「面倒だけど病気を治すため」と自分自身に言い聞かし、出された薬を毎日欠かさず飲んでいる人が増え続けています。
もちろん、医師は治療に必要だから薬を処方するのですが、頑張って薬を飲み続けることが逆効果になっているとしたら――。
高齢者の方、もしくは高齢者を抱えているご家族の方にとっては決して他人事ではありません。今飲んでいる薬は、薬の副作用によって、必要のない薬を飲んでいる可能性もあるんです。
この記事では、副作用の連鎖や副作用リスクについて話していくので、年齢性別に関係なく、自分やご家族を守るための参考にして頂きたいと思います。
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薬が体内で毒に変わってしまう!?
本来であれば、病気などで体調が崩れてしまった場合、その状態を改善するために薬は存在しています。
しかし現代では、診療科目の細分化がどんどん進み、科目ごとに複数の薬が処方されているため、受診科目が多い人ほど服用する薬の種類が増えてしまいます。服用する薬の種類が多ければ多いほど、副作用のリスクが増えることになります。
つまり、人間は高齢になればなるほど肝臓や腎臓の機能が衰えてくるので、薬が体内で代謝されにくくなり、血液中の薬物濃度が上がります。
処方量が増えることにより代謝されず、状態を改善するための薬が、副作用による毒へと変わってしまうんです。
薬の飲み合わせで死を招くケースも
1993年に帯状疱疹の治療薬として認可され、画期的な新薬として注目された抗ウィルス薬に《ソリブジン》という薬があります。
ですが、その画期的な新薬にも、飲み合わせが原因で15人も亡くなってしまうという悲劇がありました。
フルオロウラシル系の抗がん剤を服用していたガン患者が、ソリブジンを服用したことで、白血球や血小板が急速に減少してしまう相互作用が起き、ソリブジンの発売からたったの1年で、15人もの人が命を失いました。
フルオロウラシルの血中濃度が、ソリブジンの薬効によって高まったことが原因とされています。
このように、どれだけ画期的な薬であっても、薬の飲み合わせによって取り返しのつかない事態になることも、決して希(まれ)ではないんです。
ソリブジン以外にもある飲み合わせのリスク
複数の薬を服用すると、体内を循環する過程で薬同士による《作用の打ち消し合い》が起こって、薬の効果が抑えられてしまうことがあります。
薬効が抑えられるだけならまだ良いのですが、作用が重なることによって過剰な副作用が生じてしまうケースも少なくありません。このような、薬効の増強や減弱などを《薬の相互作用》と呼んでいます。
◆ 薬の飲み合わせによる代表的なリスク
服用する薬の種類 | 併用して服用する薬 | 相互作用の一例 |
ワルファリンカリウム (血液抗凝固剤) |
セレコキシブ | 消化管出血 |
ワルファリンカリウム | カペシタビン (抗がん剤) |
出血による死亡のリスク有り |
SU剤 (経口血糖降下薬) |
セレコキシブ | 血糖降下作用増強による低血糖 |
セレコキシブ (解熱・鎮痛・消炎剤) |
アスピリン (解熱・鎮痛・消炎剤) |
消化性潰瘍 |
ビオグリタゾン塩酸塩 (経口血糖降下薬) |
β受容体遮断薬 (降圧剤) |
血糖降下作用増強による低血糖 |
食べ物にも『食べ合わせの相性』というものがあるように、薬にも当然ですが『飲み合わせの相性』が存在しています。
悪い相性の薬を同時に服用すると、薬の相互作用によって薬効が抑えられてしまったり、病気を悪化させてしまうケースも少なくありません。複数の薬を服用している方は、医師や薬剤師にしっかりと確認することが自分を守ることに繋がります。
75歳以上の7.1%が15種類以上も服用
厚生労働省が集計した2014年12月の診療データで、驚くような集計結果が出ています。
75歳以上の患者に処方している薬の数は、20.2%の人が10種類~14種類もの薬を服用しているようです。さらに、15種類以上の薬となると7.1%にも上っています。
つまり、75歳以上の方というのは、約30%弱もの人が《薬が毒に変わる》リスクを抱えていることになります。
『薬が健康を損ねている』と言われることも、あながち否定できないデータだと言えるでしょう。
最も危険だと言われる《処方カスケード》とは
前述しているように、薬というのは副作用や相互作用によって、予想外の症状を引き起こすことがあります。
処方カスケードとは、薬による副作用を『新たな病気の発症』と医師が診断して新しく薬を処方し、その薬を服用することで、また別の副作用や相互作用が現れて、症状の悪化を招いてしまうことを言います。
つまり《連鎖する副作用によって健康が損なわれてしまう》ということです。
1種類の薬を処方する場合、医師は薬の副作用を把握しているので、まず問題はありません。2剤を処方する場合には、医薬品の添付文書に相互作用が示されているので、処方カスケードを心配する必要はないと言えるでしょう。
問題は、3剤以上による副作用の連鎖なんです。
3剤以上になると相互作用は未知数
基本的に薬というのは、大量に飲むことを想定して作られていません。そして、薬は即効性があるため、大なり小なり必ず副作用があります。
たとえば、消炎剤を服用すると、胃が荒れてしまうという副作用があるので、同時に胃薬を処方することがセオリーです。ここまではきちんと検証されているのですが、3剤以上となると現実的に検証は不可能と言われているんです。
つまり、3剤以上の薬では、組み合わせがほぼ無限大に広がってしまい、この相互作用を検証していると、薬そのものが世に出せないこととなります。
『薬の相互作用』か『新たな病気の発症』かは、医師でも判断が難しいということなんです。
高齢化による認知症患者の処方カスケード
認知症の患者というのは高齢者が多いため、複数の疾患を抱えているケースが通常だと言えます。なので、複数の診療科を受診しており、その科目ごとで薬が処方されています。
- 関節が痛むので関節痛の薬
- 血圧が高いので降圧剤
- 副作用で胃が荒れるので胃腸薬
といった感じで、内科や整形外科などからそれぞれ薬が処方されることになります。さらに、認知症の周辺症状が現れると向精神薬や抗不安薬が処方されるので、薬の服用量が増加する一方となってしまいます。
とくに、薬の管理を認知症患者本人がしている場合には、ちょっとしたことで病院にかかることが多く、処方カスケードとなるリスクが非常に高くなるんです。
認知症の兆候が現れた場合、たとえ軽度だとしても、薬の管理は周りの人がするべきだと言えるでしょう。
若年層でも安心できない副作用のリスク
副作用のリスクによって健康を損ねてしまうのは、なにも高齢者に限ったことではありません。
◆ 世代別に見る1ヶ月の薬の処方量
厚生労働省《2015年社会医療診療行為別統計の概況》を参照に作成
上記グラフのグレーと赤の部分が、副作用リスクが非常に高いグループとなります。
グラフを見てもらえば分かるように、10代・20代・30代・40代の若年層でも、約25%弱の人たちが5種類~7種類以上の薬を処方されている現実があります。
つまり、薬の相互作用による処方カスケードのリスクというのは、決して高齢者だけではないということを意味しています。
他の病院やクリニックで受診して薬を処方されている場合には、必ずお薬手帳を持参することが大切です。そして、処方される薬の総量が3剤を超えている場合には、迷わずに《その薬を処方している根拠》を医師に質問するようにしましょう。
若年層と言えども、薬の副作用によるリスクは高齢者と何ら変わらないので、自分自身で注意することが重要です。
リスクが高まる多剤併用を防ぐためには
老若男女問わず、3剤以上の薬を処方することは決して珍しいことではありません。
たしかに、年齢を重ねれば重ねるほど複数の疾病が現れ、薬の処方量が増えてしまう現実はあるのですが、若年層と言えども多剤併用となっている方は、決して少ないわけではないんです。
- 副作用のリスクは出来る限り抑える
- 処方カスケードによる薬の増加を防ぐ
たとえば上記のように多剤併用の危険というのは、医師と患者が信頼関係を築くことで避けることが可能です。
患者自身が出来る非常に簡単なこともあるので、服用している薬が多めの方や、ご家族に5種類以上の薬を服用している方がいる場合には、ぜひ以下の心がけを参考にして頂きたいと思います。
①信頼できる《かかりつけ医》を見つける
できるだけ近所のクリニックで見つけることが理想ですが、無理な場合は、少々遠くてもいいので、必ず信頼できる医師を見つけて下さい。
1人の医師に、全ての薬を管理してもらうことで、薬の副作用を最小限に抑えることができます。
さらに、ちょっとした体調の変化などにも気づいてもらえるので安心感が増します。あっちの病院、こっちのクリニックと複数の医師を渡り歩くと、微妙な変化のニュアンスが伝わりにくくなるデメリットが増えるので、可能な限り任せられる医師を見つけるようにしましょう。
定期検診のときなど、現在服用している薬の種類や用量を伝えて下さい。
- この薬は適切な処方なのか
- 薬物療法以外の選択肢はあるのか
自分の体調を理解している《かかりつけ医》であれば、こういったことをしっかりと相談して、間違いのない薬を再検討することも可能となります。
②自身で改善できることは積極的にする
前述していますが、服用する薬というのは、2種類以内に抑えることが最も理想的なのです。
ですが、患者の症状によっては3種類以上の処方もやむを得ない場合があり、何が何でも薬を減らすことが最善ではありません。ただ、降圧剤やコレステロール剤などのように、生活習慣を見直して改善させることで用量を減らすことができる薬もあります。
このような部分から自己防衛を行っていくことで、不要な薬の服用を抑えることが可能となります。
③お薬手帳をしっかりと活用する
処方された薬は、お薬手帳にすべて記載されています。
クリニックや病院で診察を受ける際に、お薬手帳を必ず持参するようにして下さい。
お薬手帳があることで、医師が見過ごした危険な処方があった場合、薬の専門家である薬剤師のチェックが入るので、最悪の事態を防ぐことが可能となります。
とくに、薬の量が増える高齢者ほど、お薬手帳は本人を守るための必須のアイテムとなります。また、複数のお薬手帳を持っている方の場合は、必ず1冊にまとめるようにして下さい。複数のお薬手帳では、医師や薬剤師も情報の管理が困難になり、思い違いなどの原因にも繋がりリスクが増してしまいます。
副作用のリスクを減らすためには、患者自身が『出来ることをする』積極的な心がけも必要なんです。
まとめ(薬の副作用リスクと処方カスケードの危険性)
太古の昔より、人類の英知によって開発され、今もなお進化を続けている薬。
さらに日本では、病気や怪我の際に、誰もが等しく医療の提供を受けることができる《国民皆保険制度》という、世界に誇れる制度があります。そのおかげで、万一のときでも最新の医術が私たちを救ってくれます。
一部の国を除き、海外ではほとんどの国では医療費は実費となっていて、薬に関しても驚くほど高価なものなので、一般市民が気軽に手に入れられるものではありません。
そのため、たとえばアメリカなどでは、病気を未然に防ぐ予防医学が中心になっています。
安価で薬が手に入る日本では、安心できる反面、薬の飲みすぎによる弊害が増加している状態になっており、処方量の見直しが課題になっていると言えます。
本来は私たちを守ってくれるはずの薬が、薬の飲み合わせ・処方カスケードなど、薬の副作用を薬で抑えるという本末転倒な状態となっています。せっかく長生きしても、健康を損ねていては生きている意味も半減です。
薬による弊害を減少させるためには、まず日々の健康管理をしっかりと行うことです。
自分はもちろんのこと、お子様や両親、祖父母などのご家族全員の健康を作り上げていくことが何よりも重要です。そして、運動や食事によって不要な薬を減らすことは可能なので、信頼できる《かかりつけ医》を必ず見つけておきましょう。
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